【回想】ぼくとオーク、オークとわたし 第二章 - ねずみの行進曲 -

倭国EMホール2F事務室にて。

*ヒック*

ぬぬぬ……キモチワルイ。

カナタは泥酔していた。

しばしの家出……いやちがった。修行の旅から戻ってからはじめての事件も、以前と変わらぬ冒険者達の奮闘で無事(?)幕を閉じた……まではよかったけれど、そのあと開催されたユー首長主催のバザーで、どうやら調子に乗りすぎたようで、この体たらく。

「み……水……水を……」

うわごとのようにつぶやくカナタの傍らにはいつもと変わらぬスワンソン。ふだん通りのすました表情で大ぶりのグラスをスライム状態のカナタの横にそっと置き、洗練された仕草で水を注いだ。

「お疲れさまでございましたな」

そんな素っ気ないねぎらいの言葉を意識の隅で感じつつ、やがて微睡みの中、今日の出来事を思い出すのだった。

………………

…………

 

今日も変わらず……と言いたいところだけど、さすがのスワンソンも久しぶりにみんなを迎えて、少し緊張しているみたい。

しかし、しばしの感傷のあと、それを振り切るようにいつも通り淡々と用件を冒険者達に伝える。

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なんでも以前みんなで手助けをした錬金術師FrantzとAntoinette夫婦から再び手を貸して欲しいとの依頼があったようだ。ちなみに、前の事件でオークに変身してしまったままらしい。

えらく脳天気でラブラブな二人だったような記憶があるけれど……と思っていたらすかさず冒険者からも声が上がる。

「あのバカップルか」

実に的確なツッコミだけど、うちのスワンソンも負けてはいない。

「バカップルとだけ覚えておいでなら、問題ございませんな」

とてもこれから助けにゆこうという相手のことを話しているとは思えない。案の定、この依頼を受けるかについては賛否両論。でも、スワンソンもしたたかだ。

「同意のお声のみ採用させていただきましょう」

というわけで、否応なくみんな揃ってJhelomにあるFrantz達の家に向かったのだ。

 

そうして訪れた冒険者達をまず出迎えてくれたのは、妻のAntoinette……らしきピンクのオーク。彼女は丁寧に冒険者にあいさつし、今の二人の状況も説明してくれる。度重なる実験の失敗で、人間達の信用はなかなか取り戻せないことに心を痛めながらも、オーク族相手にそれなりに上手く商売を続けていることを教えてくれる。

こうしてみるとやっぱりAntoinetteはしっかりもの? でも相変わらず夫のFrantzは、Lycaeumで見つけた秘本「奇天烈大辞典」の研究に余念がないようで……。そのおかげで二人してオークの姿になってしまったというのに、のんきなものだ。

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……と、そこにFrantzがようやく帰ってきた。

「やあ! アン! ただいま~♪」
「あなた~~♪! あなた~~♪」
Chu
「やだわ……あなたったら」
「んもう♪」

……前言撤回、やっぱりバカップルでOKみたい。

で、今回の依頼はこんな感じ。

取引をしているオーク族からの依頼を受けて、オーク洞窟に大量に発生するねずみ達を駆除すべく開発したのが、吹くと濃厚なチーズの香りを発散してねずみを意のままに操る「カマンベール・フルート」なんだけど、それをオーク達に届ける時に正体不明のヤツらに強奪されてしまったらしいのだ。

しかも悪いことに、その直後から、オーク洞窟の最深部にどこからともなくねずみ達が沸いてきて、ついには占拠されてしまったとのこと。

人間に続いてオーク達の信頼まで失ってしまったら大変! ……ということで、のんきなFrantzにしては色々考えたみたいで。

・ ねずみ達がいきなり洞窟の奥に沸いてくるということは、どこかから穴を掘って侵入しているに違いない
・ オーク洞窟から近くて、ねずみがたむろしている場所

ということで、Sanctuaryの地下が怪しいと目をつけた。

しかも、その奥にあるというエルフ達の集落への特別なゲートまで準備しているという念の入りよう。

……もしや、切れ者

と思ったぼくがバカだった。

「これは調査が必要だ!」
「……そこで、みなさんの出番です」

こともなげに他力本願。

Sanctuaryと言えば、多種多様なモンスター達が我が物顔に暴れ回っている魔窟だ。そんなところの調査を気軽に冒険者達に振ってしまうFrantzののんきさに呆れるぼくだったけど……それでも冒険者達は臆することなくFrantzが開いたゲートに飛び込んでいったんだ。

ところ変わって、Sanctuary最深部。エルフ達の集落。

Frantzは早速エルフ族の老人に地下のねずみ達の様子をたずねてみる。

すると、地下への入口はすべて封鎖されていることがわかった。早速Frantzはみんなに守ってもらいながら、閉ざされた入口のひとつへ向かったところ、なにやら怪しげなピンク色の物体で入口はふさがっている。

「ねずみの執念」……どうやら名前の通りねずみ達の情念で凝り固まった物質のようで、普通の手段では壊せそうにない。冒険者もさすがに困惑する……が、Frantzは何かひらめいたようで、一目散にエルフの集落へ戻って行く。

そして……猛烈な勢いで奇天烈大辞典をめくりだしたかと思うと、あるページでぴたりと止まり……不敵な笑みを漏らしたんだ。

「これだ!」
「呪いに凝り固まった心を溶かすもの」
「愛と情熱のエッセンス」

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Frantzは得意げに周りを見回すけど、冒険者からは当然こんな声も……

「上手く行きそうに思えん…」

でもFrantzは止まらない。熱心にその製法を確認! ……どうやらねずみの凝り固まった執念を溶かすためには、ねずみが苦手とするものから集めた情熱エナジーが必要とのこと。

冒険者の間からは、ネコ? ねこ? と怪訝そうな声が聞こえてくるけれど、我が意を得たりとFrantzはとんでもないことを提案するのだ。

「幸運なことに」
「みんな知らなかったでしょう?」
「この地には、なぜかネコが大量に闊歩しているようです」
「みなさんに……テイムしてほしいな~……なんて」
「ぼくのワガママですよね?」

傍観者のぼくは心の中でシャウトする。

「ワガママだよ!」

タイタンやらサキュバスやらとんでもないモンスター達がうようよしているこのSanctuaryで、こともあろうに牧歌的に「仲良くしてくれる?」なんてことをやらせようというのか! ……これはさすがに勇敢な冒険者達と言えど……

「やるかー」
「さっそく!」
「おーー!」

え? 物怖じすると言うことを知らないのか? 唖然とするぼくを尻目にFrantzの陽気なかけ声がSanctuaryにこだまする!

「では……出撃!」

……かくして、モンスターが密集する合間を縫って「素晴らしい……」「こっちへおいで……」「仲良くしてくれる?」など、まさに猫なで声がこだまするという奇妙な光景が繰り広げられることになったんだ。

でも、ぼくの心配をよそに、冒険者達は次々とネコを連れ帰ってくる。テイムする者、護衛する者、帰路を拓く者、素晴らしいチームワークあってこその順調さ。

驚くことに、あっという間に、薬を作るために必要な20匹のネコたちがSanctuaryの奥に集められたのだ。

そして、こうなったらキメないといけない男・Frantz。

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集まったニャー達に向かって情熱エナジーを集める儀式を始めたんだ!

「ウニャニャーニャ!(汝らの情熱を)」
「ウニャンニャニャン!(我に注ぎ給え!)」
「むおぉぉぉぉぉぉ……」

そして「愛と情熱のエッセンス」はご都合主義的にあっさり完成!

Frantz、そして勇敢な冒険者達は、ねずみの執念を溶かし、いざ地下のねずみの巣窟へ……。

普段見かけることのない、黒いねずみ達が跋扈している……が、もちろんみんなはひるまない……けれど、何かがおかしい……。黒いねずみが猛烈な勢いで増殖している! しかも通路は狭く、逃げ場もない。

勇敢な戦士達が次々と倒れてゆく。

ぼくはその光景に、まさに灰色に覆われ尽くした光景に蒼白となった……。

が、一旦奥に集まり、なんとか立て直し、それぞれがそれぞれの役割を瞬時に察知し、じわじわと巻き返してゆく。

黒のねずみ達を各個撃破する者、オーク洞窟への抜け穴を探すべく、敵をかわし洞窟を縦横に駆け回る者、傷を負った戦士達の救護にあたる者。

そしてついに、怪しげな抜け穴が見つかった!

ここでも、みんなの素晴らしい連携が炸裂する!

抜け穴の位置を皆に知らせるためにモンスターの大群の中踏みとどまる者や、取り残された冒険者を誘導すべく敵陣のまっただ中へ舞い戻る者。無茶な数の敵達を相手にしても、なお目的のために進もうとするみんなの勇気に胸をあつくしつつ、ぼくもその抜け穴に飛び込んだんだ。

そして、たどり着いたのは……やはりオーク洞窟の最深部。

ねずみ達が作ったのであろうバリケードのおかげで、オークの姿も見えない……けれど、肝心のねずみ達の姿も見えない。……奇妙な静寂。

そんな中だった。彼女が現れたのは。

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Sanctuaryの奥に人知れず、長きにわたり滞在してきたという、女王カタリナ。

なんの女王なのかは、彼女の言葉から知ることはできないけれど、そういえば武骨なモンスターや、原始的な生物がうごめくSanctuaryの中、優雅なサキュバス達が妙な不自然さで集まっている場所があった。もしかしてそのあたりとのつながりが……? などとぼくが考えている間にも話は進む。

少々腰が引け気味ながらも、カタリナの真意を聞き出すFrantz。

どうやら、騒がしいSanctuaryに嫌気がさして、次の住処を探していたときに、ねずみを操ることができるカマンベールフルートを手に入れ、ねずみ達にここを占拠させたらしい。

自分の作ったカマンベールフルートを悪用され、みんなを後ろに従えて、強気になりかけたFrantzだった……んだけど。

衝撃の事実が発覚。

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女王カタリナの部下は、カマンベールフルートを野原の真ん中で拾ったと言っているようですが……強奪されたって、言ってなかった?

「……え?」
「あ……い、いや、ここは強奪されたということで」
「進めて……みません……よね、はい」

さすがに呆れる冒険者達……

「おい・・・」
「ということで、って・・」
「落としたのか」
「・・・」
「失くしただけか・・・」

「それでも、女王カタリナがねずみを操ってオーク洞窟を占拠したことには変わりはない!」と無理矢理息巻くFrantzの声がオーク洞窟に虚ろにこだまする……。なにやってんだか……。

このあまりの滑稽さに女王カタリナも皮肉な笑みをみせるけれど、その妖艶な微笑みは粛正の合図。

洞窟の中を動き回り、冒険者達を翻弄したかと思うと、ついにその本性を現し襲いかかってきたのだ!

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敵は強力な魔法を使う……が、あのねずみ地獄をくぐり抜けてきた勇者達にとっては余裕のある戦いであるように、ぼくには見えた。

往生際の悪い女王カタリナは何度も体力を回復して反撃するが、ついに力尽き洞窟の地面に崩れ落ちたんだ!

長い戦いだったけど、みんなはFrantzを気遣い、カマンベールフルートが見つかったか? と優しく声をかけてくれる。

「もうこいつ倒したから」
「笛いいや……」

いや、確かにねずみどもからオーク洞窟を取り戻すという目的は達したんだけど……ねぇ。

あっけにとられる面々を尻目に、さっさとAntoinetteが待つ家へのゲートを開くFrantz。

何か割り切れないものを感じつつも、みんな揃ってJhelomへ戻って、何はともあれめでたしめでたし……と、ぼくも思ったんだけど。

ここで最後のひと騒動が待っていたんだ。

とにかくオーク族の信頼を取り戻し、この先の商売のめども立ったというのに、なぜかAntoinetteは浮かない顔をしている。彼女の様子がおかしいことにFrantzはもちろん、冒険者達も気付いていた。そんな中、彼女がゆっくり口を開く。

「うん……やっぱりわたしたち」
「……人間に戻った方がいいんじゃないかしら」

Frantzは正直今の暮らしも気に入っているみたいで、不思議そうにその理由を問いかける。彼女は哀しいような哀れむような瞳をFrantzに向けて語りはじめたのだ……。

「オーク族と取引するようになってからというもの」
「わたしもあの洞窟に届け物をしたりするじゃない?」
「……で、たくさんのオーク族の戦士達と会ったりするじゃない?」

Frantzもさすがにとっても不穏なものを感じたのか、相槌がこわごわになっている。

「もちろんあなたのその端正なマスクは捨てがたいの」
「でも……今のわたしは」
「彼らの……彼らの……」
「無駄にたくましいカラダに惹かれてしまうの!」

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驚愕に震えつつ必死でAntoinetteにすがりつくFrantzだったけど、彼女はため息混じりに言い放つのだ。

「でも、これは……」
「本能なのよ!」

恐らく今までの人生で一番ショッキングだったのだろう。ここまで協力してくれた冒険者達のことなんかそっちのけで、人間に戻る方法を研究するために走り去ってしまった……。

そして、残されたAntoinetteと冒険者達。

冒険者達も彼女の告白に驚いてはいたけれど、少々面白がっているのはぼくにはわかった。

そうして色めき立つ冒険者達に、しかしAntoinetteは落ち着き払ってこう言ったのだ。

「わたしが他の男に目移りするはずなんて」
「……ないのにね」

そう、彼女はFrantzに望んでいたんだ。

ちゃんと人間に戻って。

ちゃんとみんなの信用を取り戻して。

そしてしっかり前を向いて歩いて行くことを。

おそらく、近い将来、彼らはまたスワンソンに言ってくるはずだ。

「人間に戻るために、ぜひみなさんのお力を!」

 

…………

………………

カナタはほんの短い間のまどろみから覚め、机に突っ伏していた身体を起こした。

スワンソンの姿はもうない。

机の上のグラスに手を伸ばし、中身を一気にあおる。

よく冷えている水が、ただれた神経を覚ましてくれる。

もちろんまだふらついているけれど、壁に手をつきながらなんとか階下へ……そして、ステージに立つ。

今は誰も居ないEMホールだけど、カナタには見えている。

あのあと、自分の帰還を喜んでくれたみんなの姿が見えている。

次にまた、FrantzとAntoinetteが声をかけてくるまで、少し時間はあるだろう。でも、その間もいろんな出来事が起こるに違いない。そんないろんな出来事とみんなをつなぐのが自分の使命だと。

このステージの上で、そんな当たり前のことに、心新たにするカナタだった。

 


 

あらためまして、カナタです。

久しぶりの倭国オリジナルイベントでございました。

張り切りすぎて、モンスが出過ぎてしまったようです。……まことに申し訳ございません。

また、このFrantzとAntoinetteの物語も、前回からあまりに時間が空きすぎてしまい、理解しにくい部分もあったのではないかと、まこと反省しきりでございます。

ただ、今回はFrantzにとって一刻の猶予もならない事態ですので、今度は恐らく近いうちに再度みなさまのご助力をお願いすることになるでしょう。その時は、またみなさんが駆けつけてくださることを願っております。

ちなみに今回のリワードは、すでに倭国リワードホールに展示しております。もちろんいつも通り、リワードホール学芸員であるKarenの解説書付きですので、どうぞご覧になってくださいね。

 


最後になりますが、イベント後のMeet&Greetで、復帰を祝ってくださったみなさま、本当に有り難うございました。月並みですが……本当に嬉しくて、胸が一杯になりました。

その喜びを、これからのイベントでみなさまに還元できるよう、より一層張り切って参りますので、どうぞ今後共よろしくお願い申し上げます!

では、また次回イベントでお会いいたしましょう。

 

EM Kanata