EMホールの二階。
今日もぐったりと座り込みつつ砂岩の天井をぼぅっと眺めるカナタは口を開いた。
「……よく飾ったなぁ」
帰ってきたところのカナタのローブには、所々細かい笹の葉がくっついて、今日の仕事の余韻を漂わせている。
執事スワンソンは何も言わず、カナタの前にミルクをたっぷり入れた珈琲を静かに給仕する。
柔らかい香りはカナタの昂ぶりを鎮め、彼を回想の夢の中へ誘うのだった。
………………
…………
……
「よーし! こんなもんでしょ!」
七夕の当日、ぼくはローブのフードをとり、汗をぬぐった。
今日は七夕祭り。ぼくにとってははじめてだけど、今まで色んな形で冒険者達に親しまれてきた行事だけあっていい加減にはできない。
ぼくの眼前に広がるのは天の川……に見えると思いたい。
経験不足は作業量でカバー!
そんな気持ちで作り上げたお祭り会場。
なかなかの重労働だったけれど、作業中にもいろんな方が激励に来てくれた。おかげで気持ちよく、みんなが楽しんでくれる光景を期待しながら準備できたのだ。
そして、しばしの時が流れ、とうとうドキドキしながら待っていたお祭り本番だ!
今日もたくさんの人が楽しげな表情で集まってくれた。もちろんそれを見ていたぼくの表情も緩みっぱなしだっただろう。
でも、ひととおりのあいさつを済ませたぼくの元には、冒険者のみなさんが持ち寄ってくれた飾り物が殺到する! 受け取っては飾り、飾っては受け取る!
わいわいと盛り上げてくださるみなさんにろくに答えることもできず、ひたすら飾り続けるぼく。なんと結婚記念日の方もいらっしゃるようで、こちらまで嬉しくなりつつもひたすら飾り付けマシーンとして動き続けるのだ。
でも誤解しないでほしいんだ。
意外とみなさんの声援はぼくの耳に届いている。
「退廃的な七夕だな」
「壁食い競争はないんですね」
「噛み様降臨w」
「かなたんの美的センスが問われてしまう」
「かなたさんHPへってるね・・」
「もっとこき使いましょうw」
「かなたさんもきらきらしているといいよ」
ほら……ちゃんと聴いてるでしょ?
そんなこんなで、飾りも落ち着いてきたところで、ぼくも会場をひととおり眺めてみる。
天の川にイースター島が登場したり
バナナネコとキノコがあったり
今が旬のバニラ装飾を楽しんでみたり
天の川は色んな海産物のおかげで生臭くなってきたり……
超新星が現れて、天の川を燃やし尽くそうと企てていたり!
さらには会場外には
有志の方が作ってくださった激呑みスペースができあがっていたり
奉納酒『天の川』の樽が有名神社にも負けない勢いで並んでいたり。
飾り付けはもちろんだけど、みなさんがお祭りとして盛り上げてくださっているのを目の当たりにして……ぼくは。
こんなステキな時間をくれた彦星と織姫に、心の中で感謝の言葉を呟いたのだ。
あー……楽しかった……
…………
……
つかの間のうたた寝から目が覚めたとき、スワンソンはちょうど階下に降りてゆくところだった。
冷めてしまった珈琲をすすりつつ。
クールな雰囲気で階段を下りてゆくスワンソンの姿と……みんなが帰ったあとの七夕祭りの会場で見つけたこの光景。
二つの景色を重ね合わせて、ぼくはその暖かさに。
にっこり微笑んだんだ。
さて、今回は七夕イベント!
とにかく飾り付けをして、短冊に願い事を書いていただくだけというシンプルなイベントだけに、みなさんの反応が怖かったことを思い出します。
でも、やはりというか。
その心配は杞憂でございました。
やっぱりイベントはみんなで作るもの。それを実感したイベントになりました。
あらためまして、ご参加いただきました皆さま、本当にありがとうございました! みなさんに育てていただいているこの恩は、より一層楽しいイベントを提供することで返してゆきたいと思っています。これからもどうぞよろしくお願いいたします!
さて、七夕祭り会場は、おそらく一週間ほどで解体することになるかと思います。
二度は作れない会場です。
昨日来られなかった方もぜひ一度足をお運びください。そして短冊に願い事を書き込んでくださいね。
短冊にはみなさんのUOへの想い、倭国への想い、運営への切なる願い。そして久しく会っていない仲間を待ち続ける気持ち、大切な人を思いやる気持ち、立身出世を狙う誓いの言葉、果ては世界平和祈願まで、たくさんの願いが詰まっています。まだ全部見られていない方も必見ですよ!
ちなみに私への激励のお言葉もほんの少し書き込まれていたり! う……嬉しいです。そして上に掲載した執事スワンソンの書き込みも実際に会場の短冊の中に紛れています。ひま~な方は見つけてみてくださいね!
それではこの辺で……お気に入りの夜の風景と共に失礼します。
EM Kanata